「低所得世帯 再配分機能が弱いゆえに」

■低所得世帯 再配分機能が弱いゆえに
 (2010/04/18付『西日本新聞』朝刊社説)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/166148
 貧困問題が深刻さを増しているという。背景には日本経済の長い停滞と過去に例のない急速な高齢化の進行がある。
 そして、社会構造の変化に追いつけない既存の制度がある。変える努力がなされてはいるが一筋縄ではいかない。
 生活保護基準を下回る低所得世帯数が全国で229万世帯に上り、全世帯の4・8%を占めた。その数に少し驚いた。
 厚生労働省が初めて推計した。2007年国民生活基礎調査を基に(1)月額の所得が生活保護の最低生活費を下回る(2)現在貯蓄高が最低生活費の1カ月未満-の条件に当てはまる世帯数を算出した。
 全国消費実態調査を基にした推計も行い、こちらは45万世帯となった。これは少なすぎるというのが実感だ。
 ただ、数だけが問題なのではない。親から子どもへと引き継がれ、容易に抜け出せない貧困の連鎖が起きているのではないか、との声が強まっているのだ。
 日本にもかつて高度経済成長期があった。若い世代は信じ難いかもしれない。国民すべてが同じではなかったが、誰もが、それなりに暮らしは便利に豊かになって「一億総中流」意識が生まれた。
 それが、1990年代から経済の停滞によって崩れた。格差が強く意識され「勝ち組」「負け組」の言葉を生んだ。
 高齢社会の到来も大きい。公的年金の受給額、不動産など資産の有無、貯蓄の多寡など高齢者ほど個人差が大きい。
 男女の賃金格差もなかなか縮まらず、多くの母子家庭は低収入に苦しむ。
 いったん困難な状況に陥ると、個人の努力だけではいかんとも解決し難い。
 そのとき、経済格差を緩和する役割を果たすのが、国の政策、制度である。
 一つは税金だ。高所得者からは税金を多く、少ない人は少額を納めてもらう。格差を緩和する税の所得再配分機能といわれる。欧米では、低所得者向けに減税と給付金支給を合わせた制度もある。
 しかし、昨夏発表された内閣府の経済財政白書も指摘したように、日本の税制は再配分機能が極めて弱い。低所得者層では欧米諸国に比べて公的負担は重く、公的給付は少ない状態に置かれている。
 所得が低い割には税金や社会保険料の負担が重い。これは若い世代が中心だ。だから、子ども手当という手厚い給付金で直接支援するとの考え方もとれる。
 ただ、私たちは昨年末、財源を考えて制度設計の見直しを求めた。いま、導入を急ぎすぎたとの批判も出ている。
 最低賃金の引き上げ、正規・非正規労働や男女にかかわらず「同一労働同一賃金」の徹底なども底上げには有効だ。
 これらの課題は以前から指摘されてきたことだ。しかし、なかなか進まない。旧来の制度をすべて壊し、一から積み直すぐらいのパワーが必要だと思うが、いまの政治にはその力が感じられない。
 個人では破れない社会の壁を一刻も早く取り去り、新しい風を入れないと、日本社会の活力は低下するばかりだ。▲

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