「国立大法人化:経営側は評価、研究者は否定的」

■国立大法人化:経営側は評価、研究者は否定的--財務・経営センター調査
 (2010年3月14日『毎日新聞』東京朝刊)
http://mainichi.jp/life/edu/news/20100314ddm002100119000c.html
 ◇学長「よい結果」66% 学部長「マイナス」51%
 04年度に始まった国立大法人化について、全86大学の学長の3分の2が肯定的に評価する一方、研究現場を預かる学部長の半数は研究面で否定的な反応を示したことが、国立大学財務・経営センターのアンケート調査で判明した。新谷(しんや)由紀子・筑波大准教授(科学技術政策)らの調査でも現場教員の6割以上が研究や大学運営に悪影響があったと受け止めており、大学トップと現場の意識の乖離(かいり)が浮き彫りになった。【西川拓、江口一】
 国立大学財務・経営センターの調査は08年12月~09年2月、全国立大86校の学長や学部長らを対象に実施。全学長と学部長の7割が回答した。
 学長の66%は「自校によい結果をもたらしている」と回答したほか、「大学の個性化」「管理運営の合理化・効率化」など15項目中7項目で8割以上が自校の法人化をプラス評価。「研究活動の活性化」「競争力向上」など5項目でもプラス評価が6割を超えた。逆に研究活動の活性化について学部長の21%は「マイナス」、30%は「ややマイナス」と答えた。
 一方、新谷准教授らは08年8月、全国の国立大の自然科学系の教員1000人を無作為抽出してアンケートを実施、183人から回答を得た。
 69%が予算配分の削減など「研究に悪影響があった」と答えたほか、「教員や部局の意思が反映されない」「教員が減り授業コマ数が増えた」など、「大学運営」で66%、「教育」で51%が悪影響があったと回答した。
 大学から教員に配分される基礎的な研究費は、回答者の平均で法人化前の年約150万円から法人化後は72万円余に半減したことも分かった。研究テーマの変更や小規模化を余儀なくされたケースも多く、こうした不満が法人化への低評価につながったとみられる。
 国立大学財務・経営センター研究部の水田健輔教授(高等教育財政)は「法人化後、教育・研究の現場がどれだけ傷ついたかを明らかにすべきだ。国立大が果たすべき役割や位置づけとそれを支える土台作りを国全体で考える必要がある」と指摘する。
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 ■解説
 ◇変化急激、現場が疲弊
 国立大は法人化によって「自立」と「自律」を求められるようになった。各大学は予算や人事面での学長裁量を拡充し、改革に乗り出している。だが、法人化への評価が学長と一般教員でこれほどかけ離れていることは、経営側の思惑とは裏腹に、急激な環境変化で現場が疲弊している事実をうかがわせる。
 現場教員への調査をした新谷由紀子・筑波大准教授は背景として、「法人化が、財政難からきた公務員削減など国の行財政改革の一環として実施された側面が強いためだ」と指摘する。
 国立大にも06年度から5年間で5%の人件費削減が課され、全大学の収入の半数を占め大学運営の基盤となる国からの運営費交付金は今年度までに計720億円が削られた。実に北海道大と名古屋大の09年度交付金合計分にほぼ相当する額だ。
 このため、各大学は法人化に伴い拡大した国の競争的資金や、企業からの研究費の獲得に躍起になった。さらに近年、主として産業界から大学卒業生の「質の保証」を求める声が高まり、教育や就職指導に力を入れる大学も増えた。
 研究と教育の両面で「成果」を求められるプレッシャーは現場教員に重くのしかかる。
 資金獲得の書類準備や学生の教育に時間を割かれるため、文部科学省の調査では、大学教員の07年度の研究時間は、法人化前の01年度に比べ2割減った。研究費や研究時間を削られた現場教員の間には閉塞(へいそく)感が漂い、東海地方のある理系教員は「法人化していいことは何一つない」とまで言い切る。
 鈴木寛・副文科相は1月、法人化した国立大の第1期中期計画が3月末で終了するのを機に「法人化の成果や課題を検証したい」と表明した。
 現場の疲弊が続けば、多くの分野で人材を輩出してきた大学の質の低下を招きかねない。文科省は学長ら経営側だけでなく、一般教員や職員、有識者からも意見を聞く方針だ。こうした声を率直に受け入れ、現場教員の負担感を取り除くことが求められる。【西川拓】
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 ■ことば
 ◇国立大学の法人化
 国立大学法人法に基づき04年4月、全国89(当時)の国立大が従来の国の付属機関から、独立した法人に移行した。各大学は学外者を入れた経営協議会を設置し、文部科学相が認可した中期計画(6年間)に沿って大学を運営、文科省の評価委員会の評価を受ける。運営費交付金(09年度計1兆1695億円)は国から支給されるが、学長の権限や大学の自主性は強まった。10年4月から第2期の中期計画に入る。▲

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