「国立大法人化の功罪/5止 描き切れない将来像」

■大学大競争:国立大法人化の功罪/5止 描き切れない将来像
 (2010年3月19日『毎日新聞』東京朝刊)
http://mainichi.jp/life/edu/news/20100319ddm002100034000c.html
 「(国立大法人化の)背景に、(競争や市場原理を重視する)新自由主義思想で大学は変わらなければならないという考えがあった。法人化後の影を確認することが大事だ」
 2月17日、文部科学省の国立大学法人評価委員会総会。委員の寺島実郎・日本総合研究所会長が口火を切ると、他の委員も「行財政改革と重なり、(大学を活性化するはずだった)法人化の効果はかなり減殺された」「(外部資金を求め)大学の先生が浅ましくなった」「日本の高等教育が競争力を失いつつある」と続けた。
 国立大法人化は、行財政改革の一環として始まり、国からの運営費交付金が毎年1%削減された。国立大学法人法には「高等教育への財政支出の充実」などへの配慮を求める衆参両院の付帯決議があったが、一顧だにされなかった。
 浜田純一・東京大学長は3月3日、国立大学協会長に再任された際の会見で、「法人化で大学間格差が広がったのは事実」と認めた上で、「先の見えない時代だからこそ、大学が日本を支える役割は大きい」と訴えた。
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 「運営費交付金の削減方針を見直します」。昨夏の総選挙で民主党が作成した政策集の言葉だ。ところが、政権交代後も国立大への風向きに変化は感じられない。来年度予算案の運営費交付金も前年度比0・94%減と結局、減らされた。
 文科省幹部は「政策集は次の総選挙までに実現すべき政策。今回は、高校無償化という政権公約を実現する約3900億円を工面する必要があった。国立大がまったく無傷、というわけにはいかなかった」と明かす。
 来年度以降の見通しについても、財務省幹部は「国立大の予算総額は外部資金の獲得などで膨らんでいる。運営費交付金が本当に絞れないぞうきんか、という議論は今後も必要」と冷ややかだ。
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 現政権は、どんな「国立大の将来像」を描いているのか。
 鈴木寛・副文科相は1月、国立大の第1期中期計画が今年度で終わるのを機に「法人化の成果、今後の課題を検証したい」と、作業部会設置を表明した。
 鈴木氏は毎日新聞の取材に「国立大は、文化や価値観を生む拠点として重要だ。前政権の(運営費交付金の)削減方針は撤回し、これからどう増やすかを考えたい」と答えた。さらに少子化時代の国立大の数について、「いつも絞る話、削る話では現場の疲弊を招く。そんなメッセージは出さない」と明言した。一方、「どのように社会に貢献するか、大学自身が描き、国民に発信してもらいたい」と注文もつけた。
 国立大は、今後も社会から税金を投入する対象として認められ、存続できるのか。国民は、そこに何を求めるのか。岐路に立つ国立大は4月から2期目の中期計画へこぎ出す。=おわり(この連載は永山悦子、西川拓、江口一、河内敏康、高野聡、曽根田和久が担当しました)▲

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