「正社員から個人請負契約に切り替えられる」ことの問題

■働くナビ:正社員から個人請負契約に切り替えられる例が増えています。
 (2010年3月1日『毎日新聞』東京朝刊)
http://mainichi.jp/life/job/news/20100301ddm013100026000c.html
 ◆正社員から個人請負契約に切り替えられる例が増えています。
 ◇労働者保護の対象外に 団結権認めない判決も 労組、弁護士ら危機感
 これまで企業が雇用契約を結んで社員に任せてきた仕事を個人請負契約や委任契約にするケースが増え、トラブルが続出している。
 大卒で信販系の会社に就職し、事務を担当していた東京都内の女性(24)は就職の約1年後、会社から「仕事も十分覚えたので、個人請負契約に切り替える」と言われた。「みんなそうしている。収入も増える」と言うので了承した。仕事や働き方は以前と同じで収入は1割増えた。
 だが、給与支払いの内訳を見て驚いた。雇用保険や年金、健康保険などの欄がなくなっていた。会社は「個人事業主なんだから全部自分持ち」。女性は「収入増なんて、社会保険料を払ったらマイナス。正社員で就職したのに、解雇されたようなもの」と唇をかんだ。
 個人請負契約を結ぶ個人事業主とされたことで、働き方は同じでも、労働基準法や最低賃金法などが適用されなくなった。こうした「偽装雇用」と言える状況は国際的にも広がっており、ILO(国際労働機関)は06年、労働者と自営業者を区別する基準を、法で定めるよう勧告した。
 労基法上の労働者は「事業者に使用される者で賃金を支払われる者」とされ、個人請負は労働者とならない場合が多い。だが、労働組合法は労働者を「賃金に準ずる収入によって生活する者」と規定し、個人請負も労働者とされるとの考えが一般的だ。つまり、労基法の適用は難しいが、労組法の適用対象となり団結権や団交権などは認められる。労組を作ったり、加入することで、企業の一方的な契約解除や請負報酬引き下げなどに対抗することができる。
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 ところが、個人請負が労組法の労働者にあたるか否かで、争う例が増えている。労組に加入し、労働条件改善などで団体交渉を申し込んでも「自営業者だ」と拒否される例だ。不当労働行為として労働委員会に申し立て、「労働者に当たる」との命令が出ても、裁判で取り消されるケースが相次いでいる。
 危機感を持った全労連などの労組は2月6日、都内で「労働者性について考える」と題したシンポジウムを開いた。キッチンなど水回りの修繕を業務委託契約で行っている人や音響機器の保守・修理を個人請負で行う人らが参加。いずれも、いつ契約を解除されるか分からない不安や、請負料金の引き下げなどに反発して労組に加入。労働委員会では労働者性を認められたのに、裁判では否定された人たちだ。
 シンポで労働問題に詳しい宮里邦雄弁護士は「裁判所は契約の形式や文言だけで労働者性を否定しているが、会社からの仕事を拒否できるのか、指揮命令を受けて働いているのか、この仕事の収入が生活費のほとんどを占めているのかなど、実態面から判断しないといけない」と指摘。近畿大法科大学院の西谷敏教授は「企業はコストカットなどで正社員を非正規に、今度は雇用責任を放棄して非雇用とも言える個人請負にするケースが急増している。こうした状況の中で『労働者』の範囲を狭めれば、法的な救済を受けない労働者が拡大する」と批判した。
 個人請負で働く人は約200万人に達するとも言われる。労働者性の規定次第では、不況下で「偽装雇用」がさらにはびこる可能性もある。【東海林智】▲

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