「若者に無責任だった時代」

■記者の目:若者に無責任だった時代=北村龍行(元論説室)
 (2010年3月9日0時06分『毎日新聞』)
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20100309k0000m070109000c.html
 日本の混迷という場合、原因が国内にあるものと、海外にあるもの、そして国内と海外の双方にかかわっているものとが考えられる。
 原因が国内にあるなら、実態を調べ、海外の経験にも学んで、合理的な解決策を見いだせばよい。原因が海外にあるのなら、日本だけでは解決できないのだから、まずは混迷を甘受するしかない。原因が国内・海外にかかわるものであれば、関係国の集まりや国際世論への働きかけなどで、混迷から抜け出す努力を続ける必要がある。
 政治家とカネの問題や、民主党の政権担当能力への不安など国内型の混迷は、他ならぬ我々の選択によって権力を得た人々が引き起こした混迷なのだから、我々自身が解決策を模索するしかない。
 現在の世界同時不況は典型的な海外発の混迷だから、日本だけでは解決できない。だが、特に若年層の雇用の悪化を最小限に食い止める対応策は国内だけでもあるはずだ。
 環境問題や日米関係は、原因が国内・海外にかかわる典型的な混迷だろう。国際的に協調していくことになる。
 現在の混迷をこのように考えると、日本が主体的に取り組めて、しかも最重要な課題とは、若年層(といっても、就職氷河期の最初の世代はすでに30代後半に差しかかっている)の雇用の確保である。もちろん、自らの創業への支援でもよい。
 近々、中国に抜かれるとはいえ、現在は世界第2位の経済大国である日本の若者たちが、将来に希望を持てないという状況は異常である。しかも、若者から希望を奪った就職氷河期は、05年から08年までの短い雪解けの時期を挟んで、93年から延々と、現在もなお続いている。
 その間、就職できなかった既卒者は、毎年積み上がり続けている。政治はもちろん、労働政策の担当部署も企業も学校も労働組合も、そしてメディアも、責任と能力を問われざるを得ない。
 将来への希望を次の世代に引き継げなかった我々は、自らの世代の安心・安全を優先して、若者たちが道を開く試みに対する尽力を怠った、無能で、次世代に対する責任感の乏しい世代であった。
 企業の社会的責任(CSR)の最大の責務は、納税とともに雇用の確保である。また、労働組合は、労働者が団結して働く者の権利を守るために法的な権利や保護が与えられている存在である。その意味で、企業も労働組合も、その社会的責任を果たしてきたとは言いがたい。
 さらに若年層の就職難と低所得化は、少子化問題にも影を投げかける。将来の仕事や所得に希望を持てないのに、子どもをつくろうと考えるはずもないのだ。かれらに、仕事や希望を引き継げなかった我々は、無意識のうちに、少子化も促進させてしまった。
 何をなすべきか。問題は、新卒採用の機会が一生に一度しかないという硬直性にあるなら、答えは意外に単純だ。
 高校や大学は、まず、授業料を免除した無料留年制度を導入すべきだ。これにより、何度でも新卒採用に挑戦できる仕組みができる。企業の方でも、採用枠の限界から採用できなかった人材を、翌年、採用できるメリットがある。
 企業は、現在の在学生対象のインターン制度を、既卒者にも開放すべきだ。将来の正社員候補として彼らを位置づけ、事務費ではなく人件費として給与を計上すれば、会社とモノの関係ではなく、会社とヒトの関係になる。その意識改革の持つ意味は大きい。
 そしてかれらを、将来の人材として訓練すれば、コストはさほど増えず、得るものは大きい。企業の社会的責任を果たすこともできる。
 行政は、十分に保護され、権利を与えられている正社員(企業別労組組合員)の権利だけを保護の対象とすべきではない。既卒者を含むインターンや、住所を持たない労働者の権利を守り、保護する政策を検討すべきである。かれらには、人生の可能性を試みる機会と、その間の保護が与えられるべきだ。
 しかし、これは根本的な解決策ではない。貧しい弥縫(びほう)策に過ぎない。過去の既卒者の問題が残ってしまうし、先進国が行ってきた大量生産・大量消費の経済構造の主舞台が中国などの新興国に移った現状に対応するものでもない。
 本当の課題は、大量生産を新興国に委ねた後の、先進国経済の在り方にある。先進国において新たな雇用を生み出すのは、おそらく、生産拠点を新興国に移してしまった大企業ではない。
 大量生産できない、また大量消費すべきではない財やサービスを供給する無数の中小企業や零細企業、個人が雇用を生み出すことになるだろう。価格を、原材料費と生産費と利益の合計ではなく、製作者の生活費から逆算する経済である。若者たちと共に、そうした経済を可能にする財やサービスの創造が求められる。(東京市政調査会「都市問題」編集長)▲

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