「国立大法人化の功罪/2 非常勤「パート以下」」

大学大競争:国立大法人化の功罪/2 非常勤「パート以下」
 (2010年3月16日『毎日新聞』東京朝刊)
http://mainichi.jp/life/today/news/20100316ddm002100044000c.html
 千葉県柏市の東京大物性研究所の実験室に、毎日夜にならないと現れない研究者がいる。低温下での物質の性質を研究する鳥塚潔さん(53)だ。東大と雇用関係はなく無給だが、「外来研究員」という肩書で研究する。
 鳥塚さんは、埼玉大と東京都内の二つの私立大、計3大学で物理学などを教える非常勤講師を掛け持ちして生計を立てる。研究時間は授業後の夜や週末。授業1コマ(90分)の給与は1万数千円。今年度後期は週計14コマをこなした。「移動や授業の準備で実験の時間がとれない。だが、大学は授業がない期間も長く、週10コマ以上ないと生活が厳しい」と話す。
 法人化以降、国の行財政改革の一環で06年度から5年間で5%の人件費削減が大学にも課された。多くの大学は退職教員の補充をせず、人件費の安い非常勤講師で穴埋めするようになった。
 非常勤講師の日当や宿泊費などの経費削減も広がっている。鳥塚さんの場合、埼玉大から交通費に加算して支払われていた日当が08年度に廃止され、昇給もなくなった。「年金や健康保険も全額自己負担で、パート労働者以下。『そのうち非常勤講師も減らすかもしれない』とも聞いた」。法人化で教員ポストが減り、雇用自体への不安が募る。
    ■   ■
 東京外国語大は来年度、語学を担当する任期付き外国人教員を契約更新したり、新たに採用する場合、給与を約3割減らす。「優秀な外国人教員が来なくなり、教育の質が低下しかねない」。東京外大教職員組合の鈴木茂・副委員長は憂う。
 国からの運営費交付金が減り、単科大学では競争的資金の応募分野が限られるため、収入を思うように増やせない。結果として外国人教員の人件費を削り、それを原資に語学教員らを増やすしかなかった。亀山郁夫学長は「この大学の教員は、もともと総合大の倍は授業を持つ。国は(総合大と同じように交付金を減らし)貧乏人からも搾取するのか」と怒りをあらわにする。
    ■   ■
 経費削減を迫られる国立大は、「人」を犠牲にせざるを得ないのか。
 小宮山宏・三菱総合研究所理事長は昨年まで務めた東大学長当時、ある財界人に「大学は1%ずつ国の交付金を減らされて……」とぼやいた。すると「毎月1%ですか」と聞き返され、民間企業のコスト削減への真剣さを実感したという。
 東大は05年から2年間、民間の「調達のプロ」を招いた。法人化後も、「予算が余ると困る」という公務員文化が根強かったためだ。日産自動車から東大調達本部に出向した増尾次男さん(52)は「同じものを安く買うことに執着するよう、まず意識改革に取り組んだ」と振り返る。
 他の国立大学長らは「東大だからできる」と冷ややかだが、小宮山さんは「国立大はもっと安くモノを買える。人件費や研究費を削る前に、まだ効率化できるところはある」と強調する。=つづく▲

0 件のコメント:

コメントを投稿