脇田滋さん「労働者派遣法 抜本改正の公約果たせ」

■《私論公論》労働者派遣法 抜本改正の公約果たせ
 龍谷大法学部教授 脇田 滋

 (2011.12.30付『京都新聞』朝刊[第7面]オピニオン欄)
 「労働者派遣法」改正案が昨年の政府案から大きく後退した。11月、民主、自民、公明の3党が「製造業派遣」と「登録型派遣」の禁止規定を削除する修正案に合意したのである。3党案は継続審議となったが、来年初めの国会で成立する可能性が高い。
 日本の派遣法は経営側にのみ有利という点で世界でも際立っている。派遣先企業が、使用者責任をほとんど負わなくて済むからである。独仏伊などEU諸国や韓国の派遣法に共通しているのは、①長期派遣や違法派遣の場合の派遣先常用雇用責任 ②同一・類似業務の正社員との均等待遇 ③労働者保護面での派遣先責任などの規制である。日本法は、①②がなく、③もきわめて不十分である。
 派遣労働の弊害は、2008年、世界経済危機を口実とした、大量の「派遣切り」で一挙に可視化された。製造現場を支えて働いていた多くの派遣社員、構内下請け・期間工が、一方的な解雇・雇い止めによって、突然、職場を奪われた。宿泊施設からも追い出された労働者のために、各地で「年越し派遣村」の取り組みが広がり、世論の大きな共感と支持を受けた。
 09年6月、民主、社民、国民新の野党3党(当時)が派遣法改正案に合意した。これは、派遣労働の弊害をなくそうとする点で多くの積極的内容をもっていた。しかし、政権交代後の政府案は、この野党3党案を媛小(わいしょう)化させ、さらに上記の民主、自民、公明3党案は、違法派遣の場合の派遣先「みなし雇用」規定の施行を3年後に延期するなど政府案からも一層後退し、法改正に消極的であった旧政権案とほとんど変わらない。
 「自立できない低賃金」と「いつ失うかも知れない不安定な雇用」の派遣労働が広がれば、正社員雇用も脅かされ、社会保障の基盤も崩壊する。企業の横暴な「派遣切り」「大量解雇」を何としても防がなければならない。政権交代は、こうした危機感を強く抱いた多くの国民が、派遣法の抜本改正を約束する民主党のマニフェストに期待した結果である。現在の3党案では、派遣労働者の状況をほとんど改善できない、「名ばかり改正」になってしまう。
 経営側は「国際競争」「労働者のニーズ」などを理由に法規制強化に反対する。しかし、近年、国際競争で台頭じてきた韓国は06年に「非正規職保護法」を制定し、「2年での正規職化」「正規職との差別禁止」など日本より格段に強い労働者保護を導入して、正規職転換で目立った成果を上げている。韓国の最高裁も、昨年、派遣法を適用して、「現代自動車」の社内下請け労働者に正社員の地位を認める画期的判決を下した。日本は、EUだけでなく韓国にも大きく水をあけられた。
 既に、非正規労働者は全体の4割に迫っている。女性、若者では5割以上の水準である。本来、不安定な雇用の派遣労働者には、安定雇用の正社員以上の待遇をして初めて均衡がとれると考える必要がある。フランスでは派遣や有期雇用の場合、賃金の1割相当額上乗せを義務づけている。「非正規雇用は低賃金でもよい」という日本の常識は世界では非常識である。
 「社会あっての企業」である。利益のみを追求して責任を回避する日本の企業文化を改め、労働者保護に大きく舵を切るべきである。民主党は政権交代の出発点を見失うことなく派遣法抜本改正の公約を誠実に果たすべきである。▲

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