「労働時間短縮 変更迫る企業」

■労働時間短縮 変更迫る企業
 (2011年6月24日『東京新聞』[暮らし])
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2011062402000066.html
(写真:「労働時間短縮は、社会保険の事業所負担のカットのため」と話す男性=東京都で)
 厚生年金や健康保険、雇用保険などの社会保険は、一定の条件を満たせば非正規労働者も加入できる。保険料は労使折半。政府は非正規への社会保険適用拡大を目指すが、負担を少しでも軽くしたい企業は、労働者に勤務条件の変更を迫り、社会保険に加入できない働き方に変えるケースが出ている。 (服部利崇)
 「社会保険の事業所負担を免れるための労働時間短縮だ」
 東京・新宿の居酒屋で働く男性契約社員(30)は、こう言い切る。居酒屋を運営する企業は昨年七月、一部を除き、アルバイトなど非正規の労働時間を週二十時間未満、月八十時間未満に変えた。この内容を盛った雇用契約書にサインした人だけ、働き続けることができた。
 この企業は複数の飲食店ブランドを持ち、都心の駅前に直営店を集中展開。最近は低価格路線も進める。
 男性は当時、週六日、一日五~六時間働いていた。厚生年金と健康保険は、一カ月の労働日数と一日の労働時間が、ともに正社員の四分の三以上であれば加入対象。雇用保険は、労働時間が週二十時間以上で適用となる。
 労働日数と時間が正社員の四分の三を超えていた男性は、厚生年金と健康保険に加入していた。だが、週二十時間未満になれば、雇用保険さえも入れない。男性は個人加盟のユニオンに入って交渉。「週二十時間未満労働になったが、会社の強い希望で社会保険加入は続いている」と話す。
 同じ会社の系列店で働いていた女性アルバイト(24)の労働時間は月百五十時間、手取りは二十万円弱だった。それが、労働時間短縮で賃金が減り、一人暮らしの家賃と生活費もままならないように。しばらく他の仕事との掛け持ちを続けたが、体が持たずにやめた。
 この女性の場合、会社は「手取りが減る」などと言って、厚生年金や健康保険に入らせなかった。女性は「加入義務を果たさないできた揚げ句、条件に届かせないよう労働時間を短くするなんて許せない」と憤る。
 この企業は従業員向けの文書で、「過重労働を抑制してワークライフバランスを実現することで、業務効率化を目指す」と説明。従業員本位を強調したが、男性は「実態はその逆」と話す。「ダブル・トリプルワークをしないと、生活費を稼げない。多くのアルバイトがやめ、ただでさえ長時間労働の正社員にしわ寄せがきている」
     ◇
 厚生年金や健康保険への加入を希望する非正規労働者は少なくない。だが、労使折半の保険料を「あの手この手」で逃れようとする企業もある。
 外国人語学講師の労働条件向上に取り組むゼネラルユニオンの山原克二委員長は「講義だけを労働時間と限定し、正社員の四分の三をわずかに下回る週二九・五時間で契約を結ばせる語学学校が多い」と明かす。講師は、やむを得ず国民健康保険や民間保険に入るが、無保険のままの人もいる。
 労働事件を多く手掛ける笹山尚人弁護士は「原則、会社は働く人の合意なく一方的に労働条件を変更することはできない」と話す。「会社が賃金ダウンなど不利益変更を申し出たら、『一晩考えさせて』などと持ち帰り、専門家に相談して」とアドバイスする。
 笹山弁護士は「人を使って利益を得たら、企業はその人の生活も背負うべきだ。企業が働く人に報いれば、その人たちは能力を発揮して、最終的には利益を増やしてくれる」と指摘する。
 政府は非正規労働者への社会保険適用拡大のため、厚生年金と健康保険の加入条件を「週二十時間以上」に緩和する方針を打ち出している。新たに見込まれる加入者は三百万~四百万人。
 一方で経団連は、非正規労働者を多く雇う流通業や飲食業を念頭に「従業員、事業主ともに大幅な負担増となる」と懸念を表明している。▲

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