■いろはのい:有期労働契約見直し 5年超で「無期」転換へ
(2012年1月25日『毎日新聞』東京朝刊[福祉・介護])
http://mainichi.jp/life/health/fukushi/news/20120125ddm013100103000c.html
厚生労働省は、派遣労働者や契約社員など労働契約期間を定めた有期契約労働者について、同じ職場で5年を超えて働いた場合は期間に定めのない無期雇用に転換させる制度を導入しようとしています。1年、2年で迎える更新時期のたびに契約打ち切りを心配しなければならない人の雇用を安定させる狙いがあります。しかし、いったん無期契約となれば、企業側には契約打ち切りが難しくなります。このため労働期間が5年を超える前に、期限を迎えた人の契約を更新せずに打ち切る「雇い止め」を助長する恐れもあります。正社員との処遇格差など根本的な課題も残っています。【和田憲二】
◇全労働者の1/4近く
労働基準法では、有期の1回の契約期間の上限は原則3年、高齢者や専門的知識のある人は5年と決まっていますが、更新は何回でも可能。厚労省の推計によると、有期労働者は推計1200万人(10年)。全労働者5111万人の4分の1近くを占めています。
同省の「有期労働契約に関する実態調査」(11年)では、有期の労働者を雇えなくなった場合の影響(二つまで回答)について、79・7%の事業主が「事業が成り立たない」と答え、09年の53・8%から25ポイント以上増えました。
一方、労働者が「有期」を選んだ理由(三つまで回答)をみると、「勤務日数や時間」(43・1%)、「仕事の責任の程度が自分に合っている」(44・0%)など、「生活の自由」を重視する人が多いようです。それでも、「正社員の働き口がなかった」という人も30・2%います。契約の際、雇用主から更新するかどうかの判断基準を明示されていない、という人は30・1%、契約を更新する制度の有無が明示されていない、との回答も11・7%ありました。
そこで、厚労相の諮問機関、労働政策審議会労働条件分科会は昨年12月にまとめた報告書で、契約更新を繰り返し、同じ職場で通算5年を超えて働いた有期契約労働者については、本人が希望すれば「無期」に転換させるよう企業に義務づける制度の導入を求めました。2年契約の従業員なら、3回目の更新時に合計の労働期間が5年を超えます。こうした人が希望すれば、雇い主は無期雇用に切り替えねばなりません。報告書を受け、厚労省は今国会で労働契約法の改正を目指しています。
◇雇い止め増加懸念
同実態調査によると、「有期」でも実質は「無期」同様の人も多いようです。従業員の契約を「11回以上更新している」と答えた事業所は18・9%で、09年の14・7%から増えています。更新を繰り返し、契約期間終了後も雇用が続くと想定される場合は、労働者の希望に反した雇い止めを認めないことが判例で確立しています。厚労省はこの判例も法制化する方針です。
とはいえ、更新回数などの条件は明示されず、どういうケースに適用するかの基準も曖昧です。経営環境が悪化した際に、自在に人減らしできる手段を確保しておきたいのが企業心理。従業員の雇用期間が、無期契約への切り替えを義務づけられる「5年超」になる前に、雇い止めに踏み切る企業が増える懸念はぬぐえません。
労働者の処遇改善も課題です。同実態調査では、有期契約労働者のうち、年収200万円以下の人が74・0%を占めました。09年の57・3%から16・7ポイントも増えており、実に「有期」の4人に3人が「ワーキングプア」(働く貧困層)と呼ばれる状態です。
有期契約労働者の多くは、雇い止めの不安に加え、賃金や福利厚生水準の低さに不満を抱いています。しかし、今回の見直しでは無期契約に転換しても、待遇は有期雇用の時の内容を変える必要はありません。待遇改善策は課題としてそっくり残りました。▲
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