■働くナビ:官公庁の仕事に低賃金で従事する「官製ワーキングプア」。歯止めを…
(2011年1月10日『毎日新聞』東京朝刊)
http://mainichi.jp/life/job/news/20110110ddm013100019000c.html
◆官公庁の仕事に低賃金で従事する「官製ワーキングプア」。歯止めをかける取り組みは。
◇入札・契約に最低賃金設定 自治体に条例化の動き、国の対策求める声強く
(【写真】法務局での仕事を失い、「これからどう生きていけばいいのか」と訴える女性たち=東京都千代田区で)
「私には小学生の子供が2人います。これからどうやって生きればいいのでしょう」。昨年12月、東京都千代田区内で開かれた集会で、法務局での仕事を失った民事法務協会の女性労働者たちが涙ながらに訴えた。
女性たちが担ってきたのは登記簿などの証明書発行業務。民事法務協会が71年から業務を請け負っていたが、08年度から一般競争入札に切り替えられ、人材派遣会社などが低価格で落札するようになった。
民事法務協会労働組合(民法労)の調査では、11年度分業務で既に入札が行われた46局のうち同協会が落札したのは2局。価格の低さが優先され、提案書の評価点が高くても落札できない。職場に残った労働者の賃金は下がり、民法労には残業代不払いなどの相談が増えている。杉浦真由美書記長は「安ければいいという国の態度が異常事態を招いている」と強調する。
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公共事業の一般競争入札により、増え続ける「官製ワーキングプア」。自治体では、これに歯止めをかけようという動きもある。手をつけやすいのが、公共事業に賃金の最低額を設定する公契約条例の制定だ。全日本自治団体労組(自治労)や日本自治体労働組合総連合(自治労連)が実現に向けて取り組んできた。
先陣を切ったのは、千葉県野田市だった。対象は、予定価格1億円以上の公共工事と1000万円以上の業務委託のうち、▽施設設備の運転・管理▽施設設備の保守点検▽施設の清掃。賃金は公共工事の普通作業員で時給1330円以上、業務委託で同829円以上と算出。最低賃金水準で働いていた清掃員の時給は100円程度上がったという。11年度以降は警備や電話交換業務、1000万円未満の清掃業務にも範囲を拡大する。
同市総務部管財課は「国の法整備の動きが鈍いため、刺激を与える狙いもあった。他の自治体も同様の取り組みを進めてほしい」と話す。
川崎市も昨年の12月議会で、同様の公契約条例(条例改正)を政令指定都市として初めて可決。札幌市などでも、条例制定に向けた動きが出ている。
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ただ、こうした動きを広げるには課題もある。
東京都国分寺市では05年度、低価格でごみ収集業務を落札した業者が経営難から契約途中で業務を投げ出した。この業者は経費削減のため労働者に安全靴や作業着を支給しておらず、労働者が自治労市職労に駆け込んだのを機に公契約条例制定に向け機運が高まった。
ところが、当初予定されていた昨年の12月議会に条例案は提案されなかった。市総務部によると3月議会への提出も未定という。市職労の長田周一郎書記長は「市の事務系アルバイトの時給は850円。公契約条例で外注業者には(例えば)900円にしろと言っておいて、直接雇用の労働者を850円のままにしておくわけにはいかなくなる。一方で、自治体は常に経費削減を迫られている。市単独では身動きが取れないのが実情だ」と話す。
民主党政権は「最低賃金の全国平均時給1000円」を目標に掲げている。長田書記長は「官製ワーキングプアを無くすには、国の政治的判断が不可欠だ」としている。【市川明代】▲
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