「労働契約法改正案:「裏切りには慣れっこ」非正規社員複雑」

■労働契約法改正案:「裏切りには慣れっこ」非正規社員複雑
 (2012年3月23日13時53分『毎日新聞』〔最終更新:3月23日14時10分〕)
http://mainichi.jp/life/job/news/20120323k0000e040240000c.html
 5年超で有期雇用を無期に転換できるとする労働契約法改正案が23日、閣議決定された。だが、労働問題の専門家は5年に届く前での雇い止めを警戒。法案の不十分さも浮かぶ。
 神戸市の長田郵便局集配課で10年間働く福本慶一さん(32)は半年ごとに労働契約を更新する非正規雇用の契約社員だ。営業職で正社員と同じ勤務だが年収は300万円未満。課の約80人の半数が非正規雇用という。
 4年前の朝、上司に呼ばれ、耳を疑った。「非正規社員に払う賃金の予算がない。次の更新から8時間勤務を6時間に縮めたい」。時給制なので賃金25%カットを意味する。「同意しないと雇用期間満了となる可能性もある」と雇い止めを示唆された。福本さんは仲間と職場で組合を作り、通告を撤回させた。
 今年1月、正社員登用試験の不合格通知が届いた。試験は10年、当時の亀井静香・郵政担当相の「日本郵政グループで非正規10万人を正社員にする」との号令で始まった。だが、その年に正社員となったのはわずか8438人で福本さんは不合格。2度目の挑戦でもだめだった。10万人にはほど遠く、逆に雇い止めの動きもある。「僕ら30代は裏切られるのに慣れっこ。でも期待した。子供を授かり普通に暮らせる、と」。結婚にはほど遠い。
 今回の法改正に、福本さんは「無期雇用の安定感は今の半年更新とは全然違う。でも本当にそうなるのか」と複雑な表情だ。労働問題に詳しい棗一郎弁護士は、非正規雇用労働者の支援集会で「合理的理由のない有期雇用を禁止する『入り口規制』が必要だ」と根本的な不備を指摘した。【井上英介】
 ◇解説 雇い止め対策不十分
 働く期間をあらかじめ定めた有期雇用に導入される新ルールは、会社側が一方的に労働契約の更新を拒否する「雇い止め」の防止が狙いだ。08年秋のリーマン・ショックで大量の有期雇用労働者が雇い止めに遭い、社宅を追われ路上生活を強いられる事例も相次いだ。
 その後もパートやアルバイト、派遣・契約社員など非正規雇用の労働者は増え続けている。国の10年の統計では1756万人で、有期雇用はその7割にあたる約1200万人とみられる。
 有期雇用は現在、原則3年が上限だが、会社は3年ごとに契約を更新しながら長期間働かせることができた。新ルールで無期雇用に転換されれば労働者は雇い止めの不安から解消されるものの、経営側の意向をくみ、会社を離れていた期間が6カ月以上あると、期間の積み上げがゼロに戻る規定(クーリング期間)が盛り込まれた。このため、5年を超える前での雇い止めを許す余地がある。
 さらに、無期雇用に転換しても、会社側は賃金や待遇などの条件を正社員並みに改善する必要はない。低賃金にあえぐ非正規雇用の現状を変えるには、今回の法改正だけでは不十分だ。【井上英介】▲

「非正規労働者は春闘の“蚊帳の外” 福井、労働組合加入2割弱」

■非正規労働者は春闘の“蚊帳の外” 福井、労働組合加入2割弱
 (2012年3月5日午後6時26分『福井新聞』)
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/society/33422.html
 福井県内の非正規労働者の労働組合加入率が2割弱にとどまることが、連合福井が今春闘に合わせ初めて行った調査で分かった。非正規の賃金を組合交渉で決めている労組は5・3%のみで、パートや契約社員らが待遇改善議論の“蚊帳の外”に置かれている現状が浮き彫りになった。(宇野和宏)
 非正規の比重が高まる中、連合福井は非正規の労働条件改善を春闘闘争方針に明記。ただ非正規の賃金など労働条件を把握していない組合も多く、処遇改善に向けた材料とするため調査を行った。加盟282単組に調査票を送り、回答のあった95単組を集計した。
 パート、派遣社員、契約社員、期間工などの非正規労働者は2万4219人で、うち組合加入は4448人(18・4%)。組合未加入の理由は「労働協約で組合員の範囲外としている」51・4%、「非正規は採用と離職が激しく、対応できない」7・5%、「低所得の中、組合費が気の毒」5・6%などだった。
 非正規の賃金水準については51・6%が「会社が正社員や世間の動向を見て決定」。「分からない」も15・8%あり、多くの組合が非正規の労働条件に関与していない現状がうかがえる。「昨年春闘で非正規の賃金について組合として行動を起こしたか」という質問では「していない」が62・1%を占めた。正社員との処遇面では一時金、慶弔休暇、通勤費などで格差があった。
 連合福井は「非正規の役割が補完的業務から基幹的業務に拡大する一方、『正社員と同じように働きながら待遇に差がある』といった声が労働者から寄せられている」と指摘。非正規から正規への転換ルールがあるのは29・5%にとどまっており「正社員と同様に働き、正規で働く意欲を持っているのなら会社は登用の道を設けるべきだ」としている。▲

「2400人 今月末で雇い止め 年金記録照合に従事」

■<はたらく>2400人 今月末で雇い止め 年金記録照合に従事
 (2012年3月9日『東京新聞』[暮らし])
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2012030902000064.html
 「消えた年金」問題を受け、コンピューター上の年金記録が正確かを紙の台帳と照合する厚生労働省の事業で、作業に従事する人の一割余の約二千四百人が今月末で雇い止めになる。コスト削減のため発注先の業者を絞り込んだためだ。突然仕事を失うことになった人からは「三年は続く仕事だと聞いていたのに」と戸惑いと怒りの声が上がっている。 (稲田雅文)
 名古屋市内の拠点で年金記録の照合作業に当たる女性は二月上旬、突然、会社からこの拠点での業務が三月末で終了するため、雇用契約を延長しないと告げられた。「入札で負けた。業務は他の業者が引き継ぐ」と説明された。“寝耳に水”の話だった。
 女性は情報誌でこの仕事を知り、二〇一〇年十二月に応募。「業務の進み具合にもよるが、三年は続く仕事」と説明を受けた。
 画像情報にした手書き記録を、オンラインの年金記録と突き合わせていく。戦前の記録は、消えかかっていたり、台帳が破れていたりすることもある。記述にも癖があるなどして解読に苦労する。ノウハウ共有のためのマニュアルやルールは刻々と変わった。
 日本年金機構からは三カ月単位で照合する人数が提示され、正確性も求められた。女性は「一人でも多くの人が正しい年金を受け取ってほしい」と、速さと正確さが両立するよう努力した。時給は職種により八百~千円。交通費も出ない。
 コストを理由に雇い止めになることに「四月以降の照合作業の正確性はどうなるのか」と疑問を感じる。厳しい雇用情勢の中、次の職が見つかるかも不安で、見つからなければ雇用保険の失業給付を受けるつもりだ。
     ◇
 日本年金機構によると、事業は人材派遣会社や市場調査会社など五社に委託。全国二十九拠点で一件当たりの費用を調べたところ、最も高い拠点は四千四十二円で、最も低かった拠点の千八百七十四円と比べ、二倍以上かかっていた(一一年度上半期時点)。
 政府の行政刷新会議は、拠点ごとのコストの違いを問題視。一一年十一月に「処理コストが高い拠点がいまだ残っている」などと指摘した。一二年度予算は、前年度より七十六億円圧縮した六百六十億円が計上された。
 これを受け、機構は一月に全社から処理可能な件数やコストなどの見積もりを提出してもらい、うち一社とは契約しないことに決めた。この業者によると、名古屋市で八百人、千葉県で七百三十人、京都府で五百四十人、東京都で三百七十人が職を失う。機構などと協力し、次の仕事をあっせんする努力をしている。東京以外の三拠点は閉鎖する。
 機構の担当者は「業者は一二年度以降も仕事が取れるわけでないことは理解していたはず」とし「業者の努力で処理スピードが上がっており、今後の作業には影響はない」と語る。厚労省の担当者は「税金を使っているのでできるだけ効率的にやる必要がある。一部の拠点を廃止せざるを得ないのも仕方がない」とする。▲